日本:70歳、フランス:64歳

投稿日時 : 2019/12/20 18:30

「年金制度改革:61%のフランス人は、基準年齢64歳に反対」
20 Minutes紙のサイトより。

日本では最近定年を70歳にするという話題があがっているが、現在フランスで問題になっている年金制度改革で最も議論されているのが、基準年齢(âge d’équilibre、通称âge pivot(ピボット連嶺))が64歳というもの。

年金制度改革を大統領選での目玉の公約の一つとしていたマクロン大統領は、年金受給開始年齢(âge de départ)は、現状通り62歳(!)を変えないとしており、その代わりにこの「基準年齢」を導入。ここ基準をベースに支給額が計算され、その年齢より前に年金を受け取るとマイナス、遅らせるとプラスという、いわゆるbonus-malus(ボニュス・マリュス)という日本にもある仕組みだ。

現在日本の受給開始年齢は65歳。フランスではこれを現行の62歳から64歳にすると政府が提案したことで、組合が大反対。とくにある労働組合にとってこの案を撤回しないかぎりはストは続行すると強気の姿勢。日本でもフランスでも基本的に仕事の職種はかわらず、寿命もそこまでは変わらないのに、年金受け取り開始年齢がここまで違う。

上記の記事では最新の世論調査結果を紹介。フランスの年金制度改革問題の難しさが数字にでている。61%のフランス人がこの64歳の基準年齢に反対してはいるものの、前回に比べ賛成は2%増え、39%が賛同。さらに、66%のフランス人は年金制度の一元化(retraite universelle)という基本理念には賛同している。しかし、54%のフランス人は、ストライキやデモに参加している労働組合や若者を応援。

さらに、59%の国民は政府がこの年金制度改革を敢行することを望んでいないものの(増加傾向)、70%の国民は政府はデモやストライキで妥協することはないと考えているという。


この年金制度改革問題がいかにややこしいか、ざっくりではあるが、改革案のポイントをまとめる。
1)42ある特別措置を廃止。普遍的年金制度(retraite universelle)への移行。
2)現在の労働期間を基準とした計算方法から、ポイント制へのシステム変更。
3)ペニビリテ(pénibilité:仕事の困難さ)の再定義。(肉体労働、危険な環境での労働、障害などで労働に支障があるケース、出産などで労働できないケースなどのパラメーターの再定義)
4)基準年齢(âge d’équilibre)の導入。導入時は64歳で、次第に後退(あるいは前倒し。人口構成や寿命の変化などを考慮)。

この4点だけではないが、議論となっているのが大きくはこれで、労働組合は全ての点で反対。1)は政府・大統領案の根幹で、ここは政府は揺るぎなく、2)もその実現のための方法であり、ここまでは理想としては大きな反対派ない。

現行の42の特別措置制度の対象は、ペニビリテという指標や寿命などが考慮されるなどし決められた「伝統的・歴史的」な職業分野だが、この分野の人びとや組合が、新制度ではいままで受けていた恩恵が受けられなくなるとして反対し、政府の譲歩として、各職種毎(すでに警察官組合とは妥協案に合意)に交渉したり、新たなペニビリテの定義や、新制度への移行時期や適用開始世代の定義で妥協点を探っているようだ。

基準年齢については、この考え方自体に反対していたり、64歳という設定年齢に反対していたり。政府は打開策を模索中で、各職業分野毎に交渉して例外措置、暫定措置などを提案しているが、それでさらに改革案が複雑に。さらに問題となるのが(あまりにもポイントが多くきりがないが)、新制度の適用開始世代と適用開始の年について。基準となるのがマクロン大統領が生まれた1977年世代で、マクロン大統領自身も象徴的に新しい制度に移行すると示すためにも、1977年生まれの世代は確実に新制度の対象。だが、1977年生まれは含むとして、どこまで範囲を拡げるかが問題となる。一律で全ての国民がばっさりと1975年(現在の有力説)以降の生まれで区切られるのか、職業毎に「猶予」がもうけられるのか。あるいは、現役世代はすべて現制度で、法の執行(2025年予定)の新規雇用から一律適用なのか、これも分野毎に「例外措置」を設けての適用なのか。。。知れば知るほど深みにはまっていくようだ。

実は現在は、政府が法案を「発表」したというだけで、これから国会での審議がはじまり、国会でさらに法案は精査されてゆくのだが、現在のストライキやデモや、国会での審議以前に国民が声を上げているということだ。フランス人はどこまで働くことが嫌いというか、労働に対する考え方、人生に対する考え方が違うようだ。

昨日の政府と組合側との話し合いも何の解決策の糸口も見つからず。ただ、物別れというわけでもない。しかし本日の夕方からはクリスマス休暇。政府も、組合側も、メディアもバカンスモードにはいる。これがフランスだ。バカンス期間のストライキについては、組合の間で意見が分かれている。ただ、週末(あるいは年明け、バカンス明けまで)の電車はかなり不確定なのは変わらない。

ところで、この年金制度改革のストライキとデモの影響で、ジレ・ジョーヌの運動は完全に影を潜めた形になっているようだ。デモでも、そもそも個々の集まりで統率がないためにBlack Blocなどの危険分子の介入を許していたが、組合主導できっちりと管理されている年金制度改革反対のデモは、組合が自ら警備隊を編成し、危険分子の介入を許さず、デモの途中での破壊行為などはなく、デモがデモとして機能しており、一般市民がデモに反感を抱く要素はない。

今晩からバカンスモードのフランスだが、恒例の大晦日のテレビ演説でマクロン大統領が何を語るのかが注目される。